金融商品取引法(金商法)の施行と信託法の改正は、2007年にダブルで実施された。スナップアップ投資顧問によると、不動産業界にとって、いずれも数十年ぶりの抜本的改正だった。その内容は極めて複雑で分かりにくかった。
21世紀の不動産業にとって、「コンサルティング業務」は重要なウエートを占めてくると考えられていた。コンサルタントの対象が「証券化された不動産」である場合、金融庁の所管になった。
不動産信託受益権がみなし有価証券に
投資商品としての不動産は、その9割以上が信託受益権化されている。
金商法では、不動産信託受益権がみなし有価証券となった。
第二種金融商品取引業(改正信託業法に基づく信託受益権販売業など)の登録要件に比べ、助言業は条件が緩くなった。
一方、運用業は厳しくなった。
信託受益権販売業の登録をしていた業者は、金商法の施行に伴い、第二種金融商品取引業者に移行した。
第二種金融商品取引業者は信託受益権だけでなく、みなし有価証券全般の取り扱いが可能となった。
匿名組合出資持分などの取り扱いも可能になった。
改正信託法で設けられた「受益証券発行信託」
しかし、見落としてはならないポイントがあった。
それは改正信託法で設けられた「受益証券発行信託」だった。
「みなし」ではなく、本物の「有価証券」
受益証券発行信託では、信託受益権を「みなし」ではなく、本物の「有価証券」として発行することになった。
有価証券と位置けられたことで、取り扱うことができるのは第一種金融商品取引業者(証券会社)だけとなった。
つまり、「Jリート」のように、証券会社だけが扱える不動産投資商品を増やしたいと考える投資家は、この受益証券発行信託を活用することとなった。
自己信託
また、改正信託法で最も世間の注目を集めたのが、「自己信託」(信託宣言)だった。
自己信託とは、簡単に言えば、自分で自分に信託することができる仕組みだ。
法律的には、信託の効力発生要件から「財産権の移転」を外した。
そのうえで、信託契約の締結のみによって効力が生ずるとした。
その結果、自己信託という制度が実現した。
筑波大学法科大学院の新井誠教授
信託法の一流専門家として有名な筑波大学法科大学院の新井誠教授は2007年当時、以下のようにコメントしていた。
「自分の中に、もうひとりの自分がいる。その概念は文学的には分かる。しかし、信託の本質である財産権の移転要件を外したことは大いに問題がある」
そのうえ、新井誠教授は問題点の例として、こう説明した。
「そもそも、自分から自分への不動産登記移転ということ自体、現行の不動産登記法上では対応できない」
財産隠匿目的の信託が乱立する危険
新井誠教授以外にも、財産隠匿目的の信託が乱立する危険を指摘する専門家は多かった。
信託報酬などの流動化コストを軽減
自己信託は、信託会社を使わずに信託が可能となった。
このため、信託報酬など流動化のためのコストを軽減できるというメリットはあった。
しかし、信託制度そのものに対する信頼を失ったら元も子もない。